ここにいるから、気づいてね。おばあちゃんの料理で元気になる「peer space(ピアスペース) のーてぃす」【北九州市・木屋瀬駅】

更新日:2019/02/02 公開日:2018/06/21

ストレスフルな毎日を過ごす現代人の私たち。少し疲れを感じて久しぶりに里帰りすると、変わらない景色や変わらない味にほっとすることがありますよね。

野菜中心の家庭料理を提供する「peer space(ピアスペース) のーてぃす」は、そんな故郷のようなお店です。

peer space のーてぃすの場所や詳細な情報はこちら

宿場町に現れた癒しの空間

北九州市八幡西区に、木屋瀬(こやのせ)という、かつて長崎街道の宿場町として栄えたところがあります。


筑豊電鉄木屋瀬駅で降りて徒歩8分。白壁の古民家が建ち並びます。


その中に、「ピアスペース のーてぃす」を見つけました。


立派な建物と、味のある看板。


暖簾をくぐると、このとき開催中だった絵手紙展の案内が目に飛び込んできました。中をのぞいて挨拶すると、3人の女性たちが笑顔で応えてくれます。

今日は、オーナーの神保(じんぼう)さんにお話を伺いました。

おばあちゃんの知恵が詰まった昔ながらのごはん


1,800円(税込)のランチが、素敵な器に盛り付けられて出てきました。

この日の内容は、おから、豆乳汁、一夜漬け、ごま豆腐、蒸し大根の煮物、新玉ねぎと海藻の山かけ、三色米のごはん。


デザートは、新生姜のパウンドケーキ、キウイのシャーベット。旬のもので作られています。

(※卵・乳製品使用。その日のデザートメニューについての詳細はお問い合わせください)。

おからは、古民家の持ち主だったおばあちゃんから教わったものだそうですが、一般的な「おから」とは様子が違って見えます。

それもそのはず、これは大豆の「カス」ではなく、大豆そのものを粗挽きしたもの。そしてその大豆の大きさに合わせて、生姜・ニラ・黒ごま・にんじん・干し椎茸・卵が入っています。

これをごはんにふりかけて食べると、小さなお子さんでも喜んで食べるそうですよ。ゆっくり噛みしめたくなる味です。

(※おからの卵は事前に相談すれば抜くことができます。)

ごま豆腐は、ごまを炒るところから手作り。葛粉で軽く仕上げています。とても手間がかかっているのですね。口にしてびっくり、スーパーで売られているものとは、おいしさが全然違います。

この日のごはんは、黒米・赤米・緑米の三色米入り。嬉野の農家の方が作っている古代米で、上流の、生活排水が入らないきれいな水で作られています。

「ごはんがおいしくないとだめ」というのが神保さんの信念だそうです。本当においしいので、私はごはんだけで食べてしまいました。

豆乳汁は、おからを絞った後にできる薄めの豆乳に、あごだし・塩・塩麹で味付けしたもの。わかめは三陸産。おばあちゃんから「調味料と素材は良いものを使いなさい」と言われたのを守り続けています。

(※のーてぃすの食事は野菜中心のメニューですが、日によって動物性食材を使ったおかずもございます。一週間前までにご予約頂ければ、可能な限り対応いたしますので、ベジタリアン・ビーガンの方は事前に相談するのがおすすめです。豆乳汁については、常にあご出汁使用です。)

「おからと豆乳汁で、大豆をまるごと食べることになります。よく、5つの色が入っていたらバランスが取れているって言いますよね。これ、ひとつで完璧なんですよ。

昔の人の知恵ってすごいな、忘れたらいけないなと思います。このおから・豆乳汁・ごま豆腐は、おばあちゃんから口伝で教えていただいたものを今でも大切に作っています」

と、神保さん。

出会いが重なってたどり着いた場所


もともとは、小倉(こくら)で陶器のギャラリーを経営していた神保さんですが、どうして木屋瀬で食事を提供するお店を開くことになったのでしょうか。

「ある建築家の方に誘われたんです。『神保さんが好きそうな町があるから、一緒に行こうよ』って。その方は、木屋瀬を保存するために調査していたんです。それまで私、木屋瀬のこと全く知らなかったんですよ。

で、連れて来てもらったんですね。そしたら道を曲がって長崎街道に出てきたときに、『え?ここって、結界があるの?』ぐらいに感じたんです。空気感の違いというか。」

それが、木屋瀬という土地との出会いでした。

「調査に入っていた建築家の方たちが、『木屋瀬という素敵な場所を、なんとか世間に知らしめたい』ということで、私にこの地で展示会をしたらどうかと言うんです。

それで、11月3日にある木屋瀬のお祭りに合わせて、その前後3日間ですることになりました。

私は陶器の仕事をしていたので、ここに陶器を展示したら、自分のお商売みたいになるのが嫌で、すべて布ものでやったんですね。

関東や京都の方たちとのご縁があったので、向こうから来ていただいて。シルクとか麻とかの天然物で作る作家さんたちで、それぞれにファンを持っている方たちでした。

ここ(旧長野家)とこの先の梅本家、瓜生家の三軒を借りて展示会をしたんです。町の人たちは、『あの人たち、よそから来て何する気?』っていう感じで見ていたんですよ。

だけど、結果的に展示会は成功しました。その3日間、おしゃれな女性がぞろぞろ歩いたんですよ、ここを。町の人たちのほうがびっくりしていました」

それを機に、のちに「のーてぃす」になる旧長野家のおばあちゃんとの交流が始まり、お店を出す流れとなっていきます。


「だんだんおばあちゃんと仲良くなっていったんですけど、なかなかこちらに来る勇気はなく…。小倉のお店は井筒屋の裏辺りにあって、お客様も来てくださっていましたから。

『なんで木屋瀬なの?小倉にお店がちゃんとあったのに、なんでそれを閉めてまでここに来るわけ?』ってみんなに言われたんです。

だけど、なんて言ったらいいんでしょう…答えようがないんですよね。なんでって言われてもわかんないんです。ご縁というか、深いところで動かされているんだろうなと」

手間暇かかるランチは、1日に作る数が限られます。当然、やりくりは大変なはず。

「お店はスタッフ2人にまかせて、私は出稼ぎをせねば!」

と、神保さんは明るく笑います。

北九州にある「母と子の図書館」の分館長をまかされていたり、ラジオや病院での仕事をやってきたそうです。

「ここが続いていくように皆さんが助けてくれて、なんとかここまで来たんですよ。だけど私はやりたいからやってる。たぶん一番幸せなのは私なんだろうなと思います」

さりげなく気持ちに寄り添ってくれる場所


「48歳ぐらいのとき、自分が次の世代に何かを伝えていかないといけない年になってきていると思っていました。その何かというのは『ピアスペース のーてぃす』という名前に込められています。

『のーてぃす』は、『ここにあるので気づいてください』という意味で使っています。

『ピアスペース』というのは、もともとは草の根のカウンセリングをしたいと思って開いたお店だったんですよ。何かわからないけどここに来るとほっとするとか、元気になるとか、そういう空間作りをしたかった。

人が気づかないうちに元気になっていく…話が苦手な方は陶器だけ見るとか、音を聞くとか、話をしたかったら私と話すとか、どれでもいい、いろんな選択肢を用意できたらいいなという考えがあって」

のーてぃすのスタッフとして働くお二人は、小倉のお店のお客さんだったそうです。

「彼女たちと出会って、私もこの人たちと一緒に育っていきたいなと考えたことが、ここに来るひとつの大きなきっかけとなりました。そして木屋瀬でのおばあちゃんとの出会いもあって。

食べることって、人間の根源ですよね。誰もが安心して食べられるごはんを作りたいと思って」

ほっとする空間を作りたいという気持ちは変わりなくても、陶器のギャラリーから、料理を提供するお店になったわけですね。

「15年前にこのお店を始めたときは、甘い考えで、カフェだけでやりたいと思ってたんです。

ところが、1回は来てくださっても、リピートしてくださる方を繋いでいくことは難しい。やっぱり食べるものがちゃんとあって、それが魅力的なものでなければ。

じゃあ何を作りたいかというと、この120年を越える家を使わせていただくにあたって、この家で脈々と食べられてきたものを、私たちがちゃんと受け継いでいこうと。

おばあちゃんが亡くなったあとも、ちゃんとここでおばあちゃんの魂が生きていて、孫の世代に繋げている。私はスタッフに、『あなたたちはほんとに尊いことをしているんだよ』って常に話しています」

優しいけれど、エネルギーを感じる語り口の神保さん。まるでカウンセリングを受けているかのようです。実際に、神保さんに会いたい、お話したいと言って来られる方も多いそうです。

「私と話しているうちになにか知らないけどポロっと本音が出てよかったわっていう、そういう時間を作りたいなと思うんです。

体の中に入っていく食べ物には気づかいをしながらね。手間暇かけ、添加物はなるべく使わず、できることを精一杯やってるだけのことだけど。そこがわかる方には届くので、本当にありがたいなと思います」

器へのこだわり


作家さんたちの作品の数々。その中でもやはり、陶器の存在感があります。ランチに使われている器も、陶芸家の方の作品です。

「こういう見せ方をすることで、陶器の使い方を提案しているんです。この器にこう盛るところが素敵だなというのを見ていただく」

なるほど、それだと自分が使うときの想像がしやすくなりますね。

「手間暇かけてスタッフが作った料理を盛る器はとても大切だと思っています。スタッフの思いをお客様にちゃんと届けるためには器にもこだわりたいと思います」

変わらずずっと続けていくという選択


左からスタッフの巻野さん、藤田さん、オーナーの神保さん。

今後はどうしていきたいかと尋ねると、「今やっていることを続けること」という答えが返ってきて、そういう考え方もあるんだなと新鮮な感じがしました。

「25年ぐらい前に小倉のお店にいたときに決めたんです、『続けたい!』って。

お店をたくさん持つとか、たくさん収入を得るとか、そういうイメージは全然なくて。最初は草の根カウンセリングをしたいと思ってお店をつくったわけですから。

今もその根っこは変わらない。この場とこのごはんは人を元気にしてくれているだろうし、私に会いたいって言ってくれた人とはお話をするし、最初と同じことをやってるんですね。

だから今後も変わらないと思います。今は藤田と巻野というスタッフが私の宝物で。この二人と一緒に続けていきたいと心から願っています」


のーてぃすでは、絵手紙教室やベビーマッサージ教室なども定期的に開催されています。この日はちょうど絵手紙教室が開かれていました。皆さん、とても楽しそう。

無機質な建物の中と違って、こんなスペースでの教室は、リラックスできていい作品ができそうだなと思いました。

※記事の内容は取材時点のものであり、変更される可能性があります。来店時には、あらかじめお店にお問い合わせいただくことをお勧めします。

店舗情報

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このみ あんこ

このみ あんこ

福岡在住のものかき屋。
素朴でほっとするものを探しながら散歩するのが好き。
IBS(過敏性腸症候群)を薬に頼らず自分で治すべく、腸の健康について勉強中。